中央銀行デジタル通貨（CBDC）とは？

ポケットの中の現金が、物理的な形としてではなく、スマートフォンやコンピューターだけで、いつでもどこからでもアクセスできる安全なデジタル通貨として存在する世界を想像してみてください。そんな未来の到来は思っていたよりも近いかもしれません。中央銀行デジタル通貨（CBDC）の勢いが世界中で増しているからです。現在、130カ国以上 （これは世界のGDPの95％以上を占めます）が、CBDCを検討または試験的に導入しており、お金に対する考え方に革命的な変化が起こっています。しかし、CBDCとは一体何なのでしょうか。CBDCは私たちの金融システム、日常の取引、さらには従来の銀行の役割をどのように変えていくのでしょうか。

この記事では、CBDCの概要と仕組み、CBDCが提供することが期待できるメリット、CBDCがもたらす課題、そしてCBDCがどのようにお金の未来を変えるのかを説明します。

法定通貨とは？CBDCにとって重要な理由

CBDCを完全に理解するためには、法定通貨の概念を把握することが重要です。法定通貨とは、本質的な価値はなく、政府が法定通貨であると宣言することで価値があるとみなされる通貨を指します。固有の価値を持つ金や銀のような商品とは異なり、法定通貨はそれを支える政府の安定性と権威によって価値が生まれます。米ドル、ユーロ、英ポンドはすべて法定通貨の一例であり、支払手段として普遍的に受け入れられています。

CBDCは同じ法定通貨のデジタル版ですが、決定的な違いがあります。それは、物理的な現金の人気が低下している中、デジタル通貨が支払い手段として主流になりつつある点です。中央銀行は、紙幣と同じ法的な価値を持ちながら、より現代的で効率的なデジタル通貨を作るためにCBDCの導入を検討しています。CBDCは、デジタルで、より速く、より安全な決済システムの利便性を提供しながら、法定通貨と同じレベルの信頼性、安定性、安全性の提供を目指しています。

中央銀行デジタル通貨（CBDC）とは？

中央銀行デジタル通貨（CBDC）は、その国の中央銀行が発行して規制するデジタル形式の法定通貨のことです。ブロックチェーン技術を用いた分散型ネットワーク上で独立して運営されるビットコイン（Bitcoin/BTC）などの暗号資産（仮想通貨）とは異なり、CBDCは中央集権型であり、中央銀行の権威と信頼に完全に裏付けされています。これにより法定通貨となり、国内のすべての借入や金融債務の支払いに受け入れられる必要があります。

CBDCは既存の金融システムの中で機能するように設計されています。その主な目的は、デジタル決済をより安全に、迅速に、効率的にすることです。今後も世界のほとんどの地域で、物理的な現金が不可欠であることは変わりませんが、デジタル決済は飛躍的なスピードで成長し続けています。実際、世界のモバイル決済は、2032年までに26兆5,300億ドルを超えると予測されています 。現金の利用が減少するにつれ、政府によって裏付けされた信頼性が高く安全なデジタル通貨の必要性が高まっています。CBDCは、デジタル通貨ソリューションに対する需要の高まりに対応するものなのです。

CBDCの種類

CBDCには、リテール型CBDCとホールセール型CBDCの2種類があります。どちらのタイプも決済システムの近代化を目指していますが、目的も対象ユーザーも異なります。

リテール型CBDC

リテール型CBDCは、消費者や企業を含む一般消費者が使用できるように設計されたデジタル通貨です。このデジタル通貨は、現金のように機能しますが、デジタル形式です。商品やサービスの支払い、個人間の送金、オンラインショッピングなど、日常的な取引に使用されることを目的としています。リテール型CBDCは、個人の銀行口座にリンクされたデジタルウォレットやモバイルアプリを通じてアクセスできます。

リテール型CBDCは、さらに2種類に分類できます。

● 口座ベースのリテール型CBDC：このシステムでは、ユーザーは中央銀行に直接、または商業銀行などの認可された仲介業者を通じて口座を保有します。取引は一元化されたデータベースに記録され、通貨へのアクセスは個人識別法によって保護されます。このモデルは、中央銀行が取引をより詳細に監視し、規制基準へのコンプライアンスを確保することを可能にします。しかし、プライバシーとデータセキュリティに関する懸念が生じる可能性があります。

● トークンベースのリテール型CBDC：このモデルでは、ユーザーは通貨単位を表すデジタルトークンを保有します。これらのトークンは、物理的な現金のようにピアツーピアで送金することができ、取引は匿名かつ分散化されるように設計されています。トークンベースのCBDCは、デジタル決済の安全性を維持しながら、現金取引のプライバシーを提供することを目指しています。

ホールセール型CBDC

ホールセール型CBDCは、主に商業銀行や決済処理業者などの金融機関向けに設計されたデジタル通貨です。これらの通貨は大口取引を容易にし、銀行間決済の効率を向上させます。ホールセール型CBDCは、主に金融機関が大規模な取引をより安全に行い、決済時間を短縮し、特に国境を越えた決済の取引コストを削減するために利用されます。

ホールセール型CBDCは、一般消費者には利用されませんが、金融システム全体の効率性を向上させる上で極めて重要です。これは、プロセスを合理化し、金融機関間のより迅速で安全な取引を実現します。

CBDCの仕組み

CBDCは単なる現金のデジタル版ではなく、従来の通貨とは異なる多様な利点や機能を提供します。

集中管理

CBDCの最大の特徴は、中央集権型であることです。つまり、中央銀行または政府が通貨の発行、流通、規制を完全に管理しています。反対に、ビットコインのような仮想通貨は分散型であり、中央当局の管理下にありません。中央集権的な管理は、CBDCが既存の通貨システムに統合され、金融政策の実施を可能にすることを保証します。

デジタルな性質

CBDCはデジタル形式でのみ存在し、紙幣や硬貨のような物理的に対応するものはありません。これにより、デジタル決済への依存度が高まっている世界では、より使いやすく、送金しやすくなっています。CBDCはデジタル資産であるため、デジタルウォレットに簡単に保管でき、個人、企業、法人が互いに電子的に送金することが可能となります。CBDCのデジタルな性質はまた、より迅速で効率的な取引を可能にし、これはますますグローバル化し相互接続が進む経済の状況において特に重要となります。

法定通貨としての地位

CBDCは法定通貨とみなされ、公的な支払い手段として法律で認められています。これにより、物理的な通貨と同じ地位が与えられ、国内での借入や金融債務の決済に利用できることを意味します。仮想通貨は多くの国で法定通貨として認められていませんが、CBDCは法的な力により、国民経済の中で普遍的に受け入れられることになるでしょう。

セキュリティーとプライバシー

セキュリティはCBDCの重要な特徴です。中央銀行や政府は、詐欺、ハッキング、その他のサイバー攻撃に対するCBDCの安全性を保証することに尽力しています。CBDCの取引を保護するために高度な暗号技術が使用され、改ざん防止と追跡可能性が保証されています。しかし、プライバシーも重要な考慮事項です。CBDCは物理的な通貨よりも高いセキュリティを提供しますが、CBDCがユーザーに提供するプライバシーの程度は、CBDCの種類や管理する規制の枠組みによって異なる可能性があります。

CBDCのメリット

支払い効率の改善

CBDCは、取引コストと決済時間を削減することにより、決済システムの効率化を実現します。銀行や決済処理業者などの仲介業者を必要とする従来の決済方法とは異なり、CBDCはユーザーと中央銀行との直接取引を可能にします。仲介業者を介さないことにより、決済プロセスの迅速化が実現します。

金融包摂

CBDCは、銀行口座を持たない人々や、銀行口座は持っているものの十分な銀行サービスを利用できずにいる人々がデジタルにアクセスできるようにすることで、金融包摂を改善する可能性を秘めています。世界銀行 によると、世界で約14億人の成人が銀行口座を開設できずにいます。現金に代わるデジタルによる手段を提供することで、CBDCは人々に安全、安心、そして簡単にアクセスできる金融システムへの参加を実現できるのです。

金融政策の強化

CBDCは、中央銀行に金融政策を実施するための新たな手段を提供します。デジタル通貨を直接的に監視および規制できることで、中央銀行はマネーサプライの管理、インフレの管理、マイナス金利や直接的な景気刺激策の実施をより簡単に実行できるようになります。

金融犯罪リスクの低減

CBDCの取引は追跡可能で、安全なデジタル台帳に記録されるため、マネーロンダリング、脱税、その他の金融犯罪のリスクを軽減できます。政府は取引をより簡単に追跡・監視できるようになり、犯罪者が金融システムを違法行為に利用することが難しくなります。

CBDCの課題

CBDCはその潜在的なメリットにもかかわらず、対処すべきいくつかの課題やリスクも伴います。

プライバシーに関する懸念

CBDCをめぐる主要な懸念には、プライバシーが失われる可能性が挙げられます。匿名の現金とは異なり、CBDCの取引は政府や中央銀行によって監視される可能性があります。これにより、監視や個人の金融データが悪用される可能性に対する懸念が生じます。

サイバーセキュリティリスク

デジタル資産であるCBDCは、サイバー攻撃や詐欺の影響を受けやすいといえます。CBDCシステムのセキュリティを確保することは、CBDCの成功において不可欠となっています。侵害やハッキングがあれば、システムに対する国民の信頼が損なわれ、金融不安につながる可能性があります。

従来の銀行への影響

CBDCの導入は、従来の銀行システムを混乱させる可能性があります。消費者や企業が商業銀行からデジタルウォレットに預金を移した場合、銀行の融資や信用創造力に影響を与え、流動性の問題につながる可能性があります。

実装コスト

CBDCの開発と実装には、技術、インフラ、規制の枠組みへの投資など、多額のコストがかかります。政府や中央銀行は、そのメリットがコストを上回り、誰もが利用しやすく使いやすいシステムであることを保証する必要があります。

世界的なCBDC立ち上げ競争

CBDCを導入した国はあるのでしょうか？答えはイエスです。すでに複数の国が中央銀行デジタル通貨（CBDC）を導入しています。2025年初頭の時点で、以下の国々が独自のデジタル通貨を展開しています。

● バハマ：2020年10月に「Sand Dollar」を開始し、CBDCを発行した最初の国となります。

● ジャマイカ：2022年7月に「Jam-Dex」を導入し、法定通貨として認めました。

● ナイジェリア：2021年10月に「e-Naira」を開始し、金融包摂と決済の効率化を目指しています。

● 中国：デジタル人民元（e-CNY）としても知られるデジタル人民元を開発し、さまざまな都市で大規模なパイロットプログラムと試験を実施しました。インド：2022年11月に「デジタル・ルピー」パイロットプロジェクトを開始し、さらに幅広い導入を計画しています。

● ロシア：決済システムの近代化を目指し、「デジタル・ルーブル」パイロットプログラムを開始しました。

● ブラジル：「Drex」を開発、2023年3月にテスト段階を開始しました。

● 東カリブ通貨同盟（ECCU）：2021年3月に「DCash」を導入し、複数の島嶼国にサービスを提供しています。

● スウェーデン：デジタル通貨の選択肢を探る「e-krona」パイロットプロジェクトを開始しました。

● 韓国：デジタル通貨の実現可能性を評価するため、「デジタル・ウォン」パイロットプログラムを開始しました。

● アラブ首長国連邦：より広範なCBDC戦略の一環として「デジタル・ディルハム」を開発しました。

CBDCと仮想通貨の比較

中央銀行デジタル通貨（CBDC）と仮想通貨は、どちらもデジタルマネーの世界における魅力的な開発ですが、それぞれ独自の特徴があります。CBDCは、これまで使用されてきた現金のデジタル版のようなものですが、その国の中央銀行が発行し管理する点が、少し異なる部分です。つまり、法定通貨として公式に認められており、政府によって裏付けされているため、安定していて安全なのです。中国やバハマのような国々はすでに独自のCBDCを立ち上げており、金融システムを近代化し、より迅速で包括的な決済を実現しようと取り組んでいる国々は増え続けています。

一方、仮想通貨はデジタル通貨界の反逆者といえます。ビットコインやイーサリアムのような名前を持ち、分散型ネットワーク上で運用されています。その代わり、取引はブロックチェーン技術を使用したコンピューターのグローバルネットワークによって検証されます。これは仮想通貨に多くの自由とプライバシーをもたらす一方で、価格の乱高下も伴います。価値が急上昇したと思ったら、次の瞬間には急落したりします。そのリスクが報酬に値すると考える人もいれば、あまりにも予測できないと感じる人もいます。つまり、CBDCが安定性と政府の後ろ盾を提供する一方で、仮想通貨は自由と大きな利益または損失の可能性を持ちます。

まとめ

中央銀行のデジタル通貨は、お金のデジタル化における重要な進化であり、決済効率の向上、金融包摂、金融政策手段の強化といった潜在的なメリットをもたらします。しかし、プライバシー、サイバーセキュリティ、財務の安定性に関わる課題もあります。各国がCBDCの模索と開発を続けていく中で、潜在的なリスクを軽減しつつ利点を確実に実現するためには、これらの要素を注意深く検討することが不可欠です。お金の未来はデジタルであり、CBDCはその未来を形成する上で中心的な役割を果たす可能性があります。

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